日本の近代化は「復古」によってなしとげられた(クロード・レヴィ・ストロース)
日本の近代化は、フランスと違い、「革命」.によってではなく、「復古」によっているという意味で世界史における稀有な例である。
フランス人の高名な民俗学者であるクロード・レヴィ・ストロースは、日本人の正直な気質や労働に対する真摯な態度、多くの文化的特質に感銘し、非常な親日家でもあった西洋人の一人として知られているが、彼は日本の近代化についてこのように語っている。
少し長いが引用する。
「『悲しき熱帯』を書きながら、人類を脅かす二つの禍-自らの根源を忘れてしまうこと、自らの増殖で破滅すること―を前にしての不安を表明してから、やがて半世紀になろうとしています。
おそらくすべての国のなかで日本だけが、過去への忠実と、科学と技術がもたらした変革のはざまで、これまである種の均衡を見出すのに成功してきました。
このことは多分何よりも、日本が近代に入ったのは「復古」によってであり、例えばフランスのように「革命」によってではなかったという事実に、負っているのでしょう。そのため伝統的諸価値は破壊を免れたのです。
しかしそれは同時に、日本の人々、開かれた精神を長いあいだ保ってきた、それでいて西洋流の批判の精神と組織の精神には染まらなかった日本の人々に、負っています。
この二つの精神の自己撞着した過剰が、西洋文明を蝕んできたのですから。
今日でもなお、日本を訪れる外国人は、各自が自分の努めを良く果たそうとする熱意、快活な善意が、その外来者の自国の社会的精神的風土と比べて、日本の人々の大きな長所だと感じるのです。
日本の人々が、過去の伝統と現在の革新の間の得がたい均衡をいつまでも保ち続けられるよう願わずにはいられません。それは日本自身のためだけに、ではありません。人類のすべてが、学ぶに値する一例をそこに見出すからです。」(『知られざる東京』より)
フランスは革命によって近代化を成し遂げそれは世界の、近現代の世界の社会システムの規範となったが、それによって多くの得がたい伝統を失うこととの引き換えの所産であったことを彼等自身が告白していることは重要なことである。
現代にいたり、日本人はいよいよ自らの文明や価値観を忘れつつある危険性に陥っているが、「革命」「近代化」の総本家フランス人の言葉を日本人こそ忘れてはならない。
驚くべきことに、日本は、近代化を「復古」によって成し遂げた例のない国家であるということ。そしてそのことにより、「すべての国の中で日本だけが、過去への忠実と、科学と技術がもたらした変革のはざまで、これまである種の均衡を保つことに成功してきた」のであろうということ。
復古による近代化。ストロースのこの言葉を目にするまで、これほど重要なことに気づかなかった。
「革命」は憎しみの鬱積によって晴らされる「復讐劇」に他ならない。それによってもたらされる「人心の荒れ」は避けることができない。このことは、中国大陸や朝鮮半島の現状を見てもよく分かることである。
江戸時代における庶民の素直で正直な気質については、改めて記すことにするが、もし西洋においてのように、あるいはフランス王制においてのように、庶民への搾取とそれによってもたらされる享楽とが引き換えになっていたとするなら、日本の人心もまた大いに荒れていたに違いない。
そして「復古」によって近代化を成し遂げるなどという世界史上稀有な事例もまた起こり得なかったであろう。
マルクス主義者達の好きな言葉「絶対専制天皇制による搾取と抑圧」という概念自体が虚構であることは、ストロースの言葉によっていみじくも証明されたのである。
ストロースは日本文明に対する鋭い観察眼で多くの貴重な示唆を我々に与えているが、今後もそれらを折に触れて紹介していきたい。
(写真:La Republique deslivres「Claude Lévi-Strauss révélé dans une « biographie japonaise」より )

