「禁秘抄講義」を読む(14) 琵琶の宝物
玄上(4)
玄上とは、天皇家代々の琵琶の宝物である。中殿とも言われる清涼殿に御厨子が据えられ、その棚に飾り置かれている。
「御厨子」とは、もともと御厨子所(食事の調達を司る所)において食物を載せておく棚であったが、便利なものであるから、それをかたどり、華やかに造って、書籍巻物やその他の香具雑器などが置かれた。書棚のようなものである。
玄上の由来の詳細については不明だが、平安時代初期、第五十四代仁明天皇の承知年代に藤原貞敏が遣唐使として唐に赴き、滞在中、琵琶の名人劉二郎という者に教えを請い秘曲を学んだ。
帰国の際、紫檀、紫藤(それぞれ希少なる銘木のこと)、二つの琵琶を授かったことが三代実録に記載されている。この二つの琵琶のうちの一つがこれであろうか。
玄上は、紫檀の一枚板で甲を張られている。甲とは琵琶表面の広くふくらんだ部分である。
かの国の人によれば、紫檀とは大概六七寸(18~21cm程度)の幅だが、一枚板の甲とは信じがたいもので、通常の紫檀ではなく、特別なものである。
玄上は、形、音ともに言うに言われぬ極めて珍しい品物である。
玄上は霊的な力を持っている。この琵琶を人の足の方へ置くなどすると、夢に直衣(のうし 貴族の平服)を着た貴人が現れて、人の足元に置くとは何事かと言うのである。
玄上は、宮中に神霊ある器物多い中にも、他に例のないものである。
不浄の手でこれを手にしてはならない。昔は覆いもなかったが、近年はそれではいかぬということで覆いがかけられ、台に置かれた。
玄上の霊験については、かつて内裏が焼失した際に、人が持ち出そうとする前に、自ら飛び出して、大庭の椋の木の枝に引っかかったことが體源抄(たいげんしょう 楽書)に記載されている。
玄上の撥面(弾く時にばちがあたる箇所)の絵紋は消えており、ところどころに赤色のみが残っている。代々これについて検証されているが未だ定かでない。
左大臣堀河俊房が言うには、「良通」という琵琶は、玄上を模して造られたものであるから、その絵紋も玄上と同様であろうとのこと。
この「良通」の撥面は、「唐人打毬」の図である。(「良通」という琵琶については、階梯によれば、右大臣藤原是公の孫良道の琵琶のこと)
ある説によれば、黒い(玄い)象が青鉢の水を呑んでいるので玄象と言うのだとか。
またある説には、藤原諸葛の五男玄上の参議から、醍醐天皇に献上された品であるから、玄上と呼ぶのだとも言われている。
妙音院入道藤原師長は、後説の玄上が献上したものだという説をとっている。
(玄上 了)
(写真:螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)正倉院の代表的宝物で聖武天皇ゆかりのもの ― 宮内庁HP.より)

