土日にかけて仕事を完遂しようと予定していたのだが、全く先に進まない。締め切りに追われる小説家のように自堕落な土日を送る。
ふとネットを渉猟していた時に出会った「ロングバケーション」という20年以上前のドラマ。『半沢直樹』と同程度かそれ以上にその時代の空気を彩ったドラマだ。
当時、確かに何回か見た記憶がある。主人公が東京の川沿いのロフトの倉庫のような物件を小綺麗にリフォームした部屋で、偶然の出会いから始まるラブストーリーが繰り広げられる作品。
当時の印象としては、非常に軽妙洒脱なテイストのドラマという印象で記憶していた。
本来は仕事に没頭しなければいけない自分であったが。気がづけば11話連続で夜が明けるまでこの作品を見てしまった。いつも面白くない作品はさっと切り上げるのだが、面白いと止まらなくなる。
この作品は、ラブストーリー仕立てのテレビドラマとしては、際立って優れた出来栄えの作品だと知った。
意外に、軽いようで軽くない。主演は木村拓哉だが、山口智子の存在感が圧倒的で、彼女はこの作品以降女優としての活動を一端封印した。いくつかの事情はあるにせよ、この作品以上のものは出来ないから、という意味あいもあったのかと思うほどに彼女の魅力が前(全)面に冴えわたっている。
山口智子さんは栃木県の出身。実家は江戸時代から続く老舗旅館の一人娘で、幼い頃から跡取りの女将修行をみっちりと叩き込まれ育ったようだ。
しかし、彼女の人生はそれとは違った方向へ進んでいく。
両親の離婚を契機に、後妻との相性が思わしくなかったらしく、戸籍を両親から祖母の養子へと変更し、結果家系のしがらみを脱する決意をしたようだ。
祖母に非常にかわいがられたらしく、祖母の過酷な、あるいは「地獄のような」、家業踏襲の姿に、ある種の「家系的トラウマ」を覚えたようだ。彼女の人生の選択の決意には、恐らく祖母からのアドバイスもあったのだろう。
『鯉保』という江戸からの老舗旅館は、父親の他界とともに、9億ほどの負債とともに廃業(2005年)。跡地はファミリーマートになっているという。
彼女ほどの人物が家業を継いでいれば、恐らく旅館の経営はかなり上向いたかもしれない。しかし、彼女自身「自分は客商売には向いていない」と公言しており、それでもかなりの程度人の知ることになった旅館にはなっただろう。
とはいえ、昨今の状況を見るに、それほど大きな観光資源のない栃木市内でそれなりの旅館所帯を運営するのは命を縮めるほどのものであったことは疑いがない。結果的に彼女の判断は成功したと言えるだろう。
名家や歴史を深く重ねた家系に生まれ育つということは、一般的には、非常に恵まれたものとして憧憬の対象になることもある。しかし、実際にはそんな簡単なものではない。
歴史の重圧を受け止め、それを維持継続するということは、その立場にたったものにしか理解できない。それを支えるために個人の意思や思いを犠牲にすることも必要になる場合もある。
もちろん、人はさまざまであり、同じような状況でもそれを糧にさらに人生を謳歌できる人もいるだろう。そして世に貢献できる人もいると思う。
いずれにしても言えることは、人は「見かけ」では判断できないということだ。
その人の「本質」とその人の置かれた「環境」というさまざまな状況の総称でしかその人の何たるかを語ることは難しいということである。
その人の、自身の人生の選択決断というものは、誰にも侵すことのできないものであるが、その人それぞれの生き方は、結果的にその人の人生の終局に向かって結実していき、さらにその次の「その魂」のあり方を決定していくのである。

