思想的には左派に分類される学者だが、ミアシャイマー、渡辺惣樹、伊藤貫、馬淵睦夫の各氏などと言っていることは近い。書籍の中では、ミアシャイマーの意見にほぼ同意している。
ウクライナ戦争の根源的な責任は米国とNATOにあり、その起点は少なくとも2014年のマイダン革命まで遡らなければこの問題の本質は、わからない。という意見が柱。
ソ連の崩壊、トランプの勝利、ブレクジットなどを予見し、EUがドイツ経済に牛耳られている現状からEUを批判した。
左派だが、反グローバリズムの論客。
日本のことについても多くを語っているが、これに関しては賛同できることもあるが、違うと感じることも多い。
日本は現状米国の保護国に過ぎない。戦後一貫して「自らの利益のために戦争し続けてきた」危うい米国に生殺与奪を握られていることは危険であり、それを脱して真に自立した国家になるには、日本は核武装する以外に方法はなく、核の傘、核シェアリングなどは幻想に過ぎない(米国が自らの破滅を覚悟して日本防衛のために核攻撃や核兵器の貸し出し利用をするなど絶対にありえない)と言う彼の意見には賛同できる。
渡辺惣樹氏なども、彼自身もともとは日本の自主憲法制定を強く支持してきたが、米国の実態を知るにつけて、日本が真に自立しないまま九条を改正すれば、結局米国の背後の勢力の利益のために戦争に駆り出される危険があるので危険だと感じるようになった、というような話を茂木誠氏との共著で語っているが、それは確かに理屈に適う話。九条の改正と核武装はセットで行わないと日本の自立は危ういというのは疑いようのない事実だ。
話を戻すが、トッド氏は、西洋人特有のアジアに関するある種の誤解や知識の不足や齟齬を感じるところも多いが、欧米、ロシア等に関しての現状認識に関しては非常に優れている。
彼は、国際情勢、経済の評論家ではなく、「歴史人口学」「家族人類学」「国・民族・地域別の家族システムの違い」などから世界の情勢を分析する学者。
その意味で、文明論、宗教や文明、民族単位からの価値観に立脚した観点から人類の動向を分析しており、他の一般的な論客とは違う視点で国際社会をみている。
文明の衝突、経済至上主義(グローバリズム)と地域、国家や民族単位の生活感・価値観を重視する考え方(ナショナリズム)との決定的な衝突が起こることで、狭まった世界が人類史上稀有な大変動を起こしている現代の状況において、彼の視点は非常に多くの示唆を我々に与える。

