主人公は公衆トイレの掃除夫(役所広司)。どうやら何か理由のある過去や事情があってこのような人生を歩んでいると想像されるが理由は定かでない。

2時間の作品中、そのほぼ全てがいくつかの公衆トイレの掃除をするシーンばかりで、台詞もほとんどない。主人公は無口で飽き飽きするほど平凡な描写が続く。

仕事の合間の休憩時間や移動時の車内でのささやかな憩い。業後の飲み屋での軽い人間模様や風景描写。自宅での読書や銭湯でくつろぐひと時などが挟まる。数人の人との交流や出会いの描写もあるがどれもみなぼんやりとして希薄である。

「ヴィムヴェンダースらしいというか。まあ悪くはないがこんなもんかな」

という印象のまま映画はラストシーンへ。そして、最後の1~2分の描写が流れると、それまで飽きるほど平凡だった2時間全てのシーンが走馬灯のように克明に思い出された。

役所広司という俳優は正直言ってあまり魅力的だと感じたことがなかったが、この作品の最後の数分の演技は役所広司史に残る最高の名演になることは間違いないだろう。

最後の数分で作品の価値の全てが決まるような映画はいくつかある。例えば「市民ケーン」とか「ミモザ館」とか。かなりの古典ばかりだが。しかしこの作品はそれらをも凌ぐ名作かもしれない。

「パリテキサス」「ベルリン天使の詩」など名作の多いヴィムヴェンダース。どの作品もかなり以前に観たものばかりで記憶が曖昧だがそれらを超える作品であろうか。

自分がもし20年前にこの作品を観ても作品の魅力を理解できなかったかもしれない。人生に終わりが見えてくるくらいの年齢にならないとこの作品の本当の味わいを実感できないように感じる。

ここ数年に観た作品の中では最も強く印象に残った作品で傑作というよりは名作。深く沁みる作品。ヴィムヴェンダースの評価が変わった。

ちなみに主人公が昼食をする神社があるが、代々木八幡。

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